輸入元によると、今回の個体はニカラグア産で、Phrynus mexicanus という学名で輸入されたようです。それで、メキシコウデムシという名前で販売したようです。
Twitterを見ていると、これが「メキシコのウデムシ」であるかのように誤解されているのが見受けられます。
今回はこれについて話します。但しかなり複雑な内容になりますので、読んでいて頭痛がした方は別のブログをご覧ください。
実は、このPhrynus mexicanusという種類は現存していません。
メキシコで採れた琥珀の中からのみ発見されている化石種です。
ということはそもそも現存種でないわけですから、学名が間違いであることが分かります。ではなぜこのようなことになってしまったのでしょう。
実は現存種で、Paraphrynus mexicanus という種類が存在します。
Paraphrynus属というのはPhrynus属と同亜科(Phryninae)の属です。
この属の種類は昔、Phrynus属に含まれていました。
Paraphrynus mexicanus も例外ではなく、元々Phrynus属で、
Phrynus mexicanus という学名でした。
この学名が現在 間違って使用され、今回のような出来事になったのかもしれません。
しかし!
今回の個体はこの"現存mexicanus" でもありません....
えーー。。
現存mexicanus (現Paraphrynus mexicanus、旧Phrynus mexicanus) はメキシコ固有種であり、体長が13mm程しかない小型種です。今回の個体はグアテマラ産で体長は40mm近くあります。見た目も明らかに違います。
今回の個体に関してはウデムシの専門家からPhrynus whitei のようだというご意見を頂きました。見た目もそっくりで分布域も合致します。
つまり、今回の個体は
グアテマラ固有種 Phrynus whitei であり、メキシコに分布している種類ではない
(化石mexicanusでも現存mexicanusでもない)
ということになります。
そうなってくると「メキシコウデムシ」という名前は不適切だと思います。
グアテマラ産なんだから大人しく「グアテマラウデムシ」とかでいいと思いますね。ただグアテマラ固有のウデムシは3種類程いますので、種小名からつけたいのであれば「ウィッテイウデムシ」や「ワイトウデムシ」でしょうか。
ちなみに化石mexicanusは記載当時"Phrynus mexicana"という学名でした。
学名はラテン語由来であり、単語には「男性名詞」「女性名詞」「中性名詞」が存在します。
国名由来の種小名の場合、基本的に
属名が男性名詞だと語尾が"-us"になり、
女性名詞属名は語尾が"-a"
中性名詞属名は語尾が"-cum"になります。
日本の場合
japonicus、japonica、japonicum のような感じです。
例えばニホンヤモリはGekko japonicus、
アオズムカデはScolopendra japonica です。
japonicumは植物で多く使われていますね。
今回のPhrynus属は男性名詞ですのでmexicana は不適切でmexicanusが適切であるということです。
この理由により現在ではPyrynus mexicana は Phrynus mexicanus に変えられています。
記載時は属名の性別を確認することと異物同名にならないよう配慮しなければならないのですが....
という感じで、学名って面白いですね。
今回の個体と同属のフロリダウデムシ。
学名はPhrynus marginemaculatus というのですが
これまたPhrynus margaronemaculata と表記されることもあります....