今回はオオムカデの一種、Scolopendra subspinipesについて書いていきます。


専門外ですので間違いあればすみません。


亜種に注目して、主に2012年、2016年、2017年、2021年の論文などを参照します。






2000年になるまでに

Scolopendra subspinipes には亜種がたくさん存在していました。


そのうち、2001年に

Scolopendra subspinipes mutilans


Scolopendra subspinipes gastroforeata


基亜種 Scolopendra subspinipes subspinipesに統合されました。


(Schileyko 2001; 2004, Lewis 2010)


S. s. gastroforeataはフィリピンに分布する亜種でした。




mutilansはその後独立種Scolopendra mutilansとなります。


(Kronmüller 2012) 


これが日本にも分布するトビズムカデです。




但しKronmüller (2012) によると Chao & Chang (2003)で種に格上げされたとありましたが、 Chao & Chang (2003)を見ても全てS. s. mutilansと亜種扱いされておりました。シノニムとされたものを復活させているのは分かるのですが種に格上げはしてないと思うんですけどね....引用ミスですかね。



S. s. mutilansS. s. subspinipes S. mutilans ?


S. s. gastroforeataS. s. subspinipes







2012年の論文にて、


Scolopendra hainanumの記載と共に再度亜種の見直しがあります。


(Kronmüller 2012)




Scolopendra hainanumdehaaniと思われていたようで、海南島から採取された個体について別種であるとされています。分布域は海南島で、中国大陸に分布している可能性もあるとされています。現在では中国雲南省や貴州省などにも分布していると言われています。


うーーーん。種小名語尾umでいいのか....??


語尾は中性名詞属なら-um、女性名詞属なら-a、男性名詞属なら-usになるはずで、既にS. japonicaがいるようにScolopendra は女性名詞なので本来なら語尾は-aになるはず。

そして論文中に肝心の「etymology (語源)」がない....


実際にMyriatrixではS. hainana とされていますね。その方が良いと思うんですがね。




Scolopendra subspinipes cingulatoides


S. dawydoffiに改名、種に格上げされました。


こちらはベトナムとラオスに分布する種類です。中国にもいる気がしますがどうでしょう。


改名する必要はあったのでしょうか。疑問です。"cingulatoides"は、"cingulata"に、


似ているという意味の"-oides"を付けた形ですので、cingulataと全然違うじゃないかって感じなんでしょうか。うーん。改名する必要はあったのでしょうか。ICZNはいかに..




Scolopendra subspinipes piceoflava


S. subspinipes のシノニムにされました。


これはインドネシア スラウェシ島に分布する亜種でした。piceoflavaの記載時に言及されていた形態的差異はsubspinipesの範疇であることと、色彩的差異についてはムカデにおいて種を分ける要因になり得ないということが理由みたいです。確かに亜種名"piceoflava"はpiceus(黒色)とflavus(黄色)から成っているようですし。


論文中ではイラストによる詳細はありませんでした。




Scolopendra subspinipes dehaani


S. dehaani として独立しました。


分布域は論文中にインド、ミャンマー、バングラデシュ、マレー半島、アンダマン諸島、ニコバル諸島、中国、香港、インドネシア、タイ、ベトナム、日本、沖縄、カンボジアとあります。日本?沖縄?ミスでしょうか。


属内ではかなり大きくなる種類で、形態的特徴が他のsubspinipesと違うようです。




Scolopendra subspinipes japonica


S. japonica として独立しました。


これが日本にも分布するアオズムカデですね。他に台湾とカンボジアに分布しているとあります。中国大陸にも分布している気がしますがどうでしょう。こちらも形態的に他のsubspinipesと違う部分が大きいようです。


Omostigmus属として記載されていたOtostigmus puncticeps


Otostigmus politoidesは本種 のシノニムになりました。






Scolopendra subspinipes fulgurans


S. subspinipes のシノニムになりました。


こちらはブラジルに分布する亜種でした。S. subspinipes はブラジルで非常に個体数の多い種類となっています。これはアジアからの船によって移入された可能性があるようです。そんな中、色彩が異なるということでfulguransが記載されたようです。タイプ標本が行方不明ということから詳しく検査が出来ませんでしたが、ブラジルに収蔵されていたsubspinipesラベルの個体からfulguransの記載時の特徴を持つ個体が発見されたようです。旧piceoflavaもそうでしたが、ムカデの種を分けるうえで体色がいかに違おうが判断材料としてはダメそうです。




以上が改訂箇所となっています。亜種がシノニムになったり独立したりして、

subspinipesの亜種がなくなりました。


但し分布域について少し怪しいところはあります。あとhainanumの語尾が気になる。



S. s. dehaani "tigerleg"→S. hainanum (S. hainana)


S. s. cingulatoidesS. dawydoffi


S. s. piceoflavaS. subspinipes


S. s. dehaaniS. dehaani 


S. s. japonicaS. japonica 


S. s. fulguransS. subspinipes 


Otostigmus puncticeps S. japonica


Otostigmus politoidesS. japonica 







2016年の論文ではScolopendra属について大幅な見直しがありました。




Scolopendra subspinipesの欄を見ると、


シノニムに


S. audax

S. septemspinosa

S. borbonica

S. sexpinosa

Rhombocepgalus gambiae

S. ceylonensis

S. flava

S. gercaisii

S. lutea

S. ornata

S. placeae

S. planiceps

S. rarispina

S. sandowichiana

S. mactans

S. sulphurea

S. byssina

S. cephalica

S. cephalica gracilis

S. dinodon

S. gracilipes

S. parvidens

S. plumbeolata

S. bispinipes

S. nesuphila

S. repens

S. elongata

Rhombocephalus smaragdinus

S. damnosa

S. mutilans 

S. aurantiipes

S. variispinosa

S. rugosa

S. meyeri

S. macracanthus

S. flavicornis

S. subspinipes gracilipes

S. subspinipes molleri

S. polyodota

S. machaeropus

S. aringensis

S. subspinipes mutilans

S. subspnipes gastroforeata

S. subspinipes piceoflava

S. subspinipes fulgurans


とあります。多すぎ.....


 記載が古く、タイプロカリティが不明だとか。


そしてmutilans がシノニムとなっております。特に記述もなくシノニムになっておりました。何か論文を見落としたのか...


分布域に関して日本の五島列島にも分布しているとあります。私が今までに見た五島列島のムカデは全てトビズムカデ(旧mutilans)でした。




2012年にジュニアシノニムとされたS. s. piceoflavaに関しては


形態的にやや違いがあるとしながらも、

追加材料がないことから暫定的にシノニムとして受け入れる、

とあります。どうも筆者的にはシノニムにしたくなさそうな感じは漂ってきます。

色彩が他の個体群と明らかに違うとも書かれていますが、うえで書いたように

ムカデの色彩は種を分ける判断材料にはなり得ないと思います。

「今後の研究により有効種になり得る」と書かれていますので復活する可能性もあるでしょう。


そして

S. dehaani について。

新たにS. arboreaが本種のシノニムとされました。


そしてdehaaniの分布域から日本は消されていました。でしょうねー


分布域は主にタイで、他にラオス、カンボジア、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、インドネシア、中国、メキシコとされています。メキシコは論文中で移入かラベルミスかもと言われています。ただしずっと昔にペットルートにメキシコ産の本種と思われる個体がのったことがありました。全身赤色の、タイランドチェリーレッドのような感じの個体です。つまり、やっぱりいるのかもしれませんね。


そして興味深いのが、カラーモルフが5つ紹介されていることです。




カラーモルフ1.


二色性。頭部を含む全ての胴節は暗褐色。胴節の後方縁は暗色の帯状。触角は赤褐色。側面は淡い灰色の外皮を持ち、褐色。歩脚は栗色、脛節と脚根は暗紫色。




カラーモルフ2.


二色性。全ての胴節は褐色または黄橙色。胴節の後方縁は暗色の帯状。触角は黄橙色。側面は淡い灰色の外皮を持ち、淡い灰色。歩脚は暗褐色、脛節と脚根は暗紫色。




カラーモルフ3. 


単色性。頭部を含む全ての胴節が赤褐色。触角も赤褐色。側面は淡い灰色の外皮を持ち、褐色。第1~第18歩脚は黄褐色、脛節と脚根は赤褐色。第20歩脚と曳航肢は全体的に赤褐色。




カラーモルフ4.


二色性。頭部と第1・第2、第19~第21胴節は鮮やかな赤色で、他の胴節は褐色。胴節の後縁は暗色の帯状。触角は黄色又は明るい橙色。側面は淡い灰色の外皮を持ち、橙色。第1~第19歩脚は黄色がかった色をしており、曳航肢にかけてのグラデーションはない。第20歩脚と曳航肢は全体的に赤みを帯びる。




カラーモルフ5.


二色性。頭部を含む全ての胴節はさくらんぼ色(チェリーレッド)。胴節の後縁は暗色の帯状。触角は赤色又は橙色。側面は灰色の外皮を持ち、橙色。歩脚は全て赤みがかっている。




カラーモルフ1はベトナムなどに分布する、いわゆる「ベトナミーズブラックチップ」と呼ばれるタイプでしょうか。タイの個体群「タイランドブラックチップ」も似ていますが、胴節が全体的に暗く、暗色の帯というものが微妙です。


カラーモルフ5はマレーシアに分布する、いわゆる「マレーシアンチェリーレッド」や、タイの「タイランドチェリーレッド」あたりがこれにあたりそうですね。タイランドチェリーレッドは節の色が暗く、暗色の帯というものがあるのかないのか微妙なところではありますので前者が一番近いような気はします。

タイランドチェリーレッド



その他が何を指しているのかは微妙にわかりません。。。


論文中にはいわゆる「タイランドフレームレッド」と呼ばれる個体が紹介されていますが。




その他、分布域が気になったS. japonicaに関して、

中国雲南省が追加されていました。ペット界隈では貴州省にもいるとの情報がありますが。

S. dawydoffi に関しましてはタイとマレーシアが追加されています。

元々の名前"cingulatoides"が示すS. cingulataと近縁かについて系統解析がされました。


その結果、やはり近くはなく、むしろS. multidensに近いことが分かりました。S. cingulataS. japonicaの方が近縁という結果に。地理的にもかなり離れているとの理由によりcingulataとdawydoffiが別種であることは明らかなようです。


ほいでも改名する程のことなんでしょうか。



S. (s.) mutilansS. subspinipes


S. arboreaS. dehaani


S. s. piceoflavaS. subspinipes 但し追加検証の余地有







そして翌年の論文にて


mutilansが独立種扱いされておりました。


(Sihe Kang et. al., 2017)


学者によって意見が二分しているのでしょうか。


ロカリティは中国 河南省、安徽省、湖北省、浙江省です。

その他 S. hainanaの分布域に広西省が入っておりました。

S. subspinipesの分布域には雲南省、海南島が追加されておりました。

S. dehaaniのロカリティは広西省、雲南省でした。

S. mutilans は再独立。 (学者によって意見が別れそう)







2021年、我らがリュウジンオオムカデの記載がありまして、

その際に国内の別のオオムカデ達も遺伝子が検査されております。


S. mutilansのロカリティは沖縄島、久米島、神奈川県

S. subspinipesのロカリティは小笠原諸島父島


でした。S. mutilansの独立を支持しているようです。

また、日本国内では本土の個体群がS. mutilans、いわゆるトビズムカデで

南西諸島の個体群はS. subspinipes いわゆるオオムカデであるとされてきました。


南西諸島の個体群は体長が本土の個体群よりもはるかに大きく、体節の色が緑がかっていることから別種だと思われていました。


しかし今回 沖縄島の個体がS. mutilansとされていることから

南西諸島の個体群もS. mutilansとなったようです。


よって本物国産S. subspinipesは今までオガサワラオオムカデと呼ばれていた小笠原の個体群(移入個体群)だけになったようです。



まとめます。





S. subspinipes


S. s. gastroforeataS. subspinipes


S. s. fulguransS. subspinipes 


流通名:オガサワラオオムカデ、スレンバン、ジャワブラック、ハイナンミント、クワンシーミント等


分布域:ミャンマー、マレーシア、シンガポール、ベトナム、インドネシア ジャワ島、スマトラ島、ベルネオ島、ロンボク島、スンバワ島、ニューギニア島、フィリピン ルソン島、中国 舟山、寧波 、長沙 、海南島、雲南省、台湾南部、日本 (小笠原諸島)


但し一度本種のシノニムとなったS. mutilansの分布域が入っている可能性があります。


日本では小笠原諸島に分布する個体群が本種であると言われています。



中国広西省産青脚タイプ。クワンシーミントレッグと呼ばれるタイプです。

昔はハイナンミントレッグと呼ばれていましたがこれは産地を隠すために別の産地をコモンネームにつけたようです。海南島にはこのタイプはおそらくいません。



S. s. piceoflava (=S. subspinipes)

S. s. piceoflavaS. subspinipes  但し追加検証の余地有


流通名:スラウェシブラック、スラウェシイエロー?


分布域:インドネシア スラウェシ島



スラウェシ島産旧piceoflava。スラウェシブラックと呼ばれる個体。




S. mutilans

S. s. mutilansS. mutilans 独立


但しS. subspinipesのシノニムとする場合も多い。


流通名:トビズムカデ、シナトビズムカデ、チャイニーズレッドヘッド


分布域:日本、中国 河南省、安徽省、湖北省、浙江省、韓国、台湾


対馬産赤脚タイプ。

対馬は赤脚が多いですが黄脚も存在するようです。

中国広西省産赤脚タイプ。

中国にも赤脚タイプと黄脚タイプがいます。

岐阜県産黄脚タイプ。

岐阜県産赤脚タイプ。



石垣島産黄脚タイプ。

いわゆる南西トビズと呼ばれるタイプで、本土のトビズと比べて体節の色が明るい。

赤脚タイプは見たことがありませんが橙脚くらいならいます。



S. hainanum (S. hainana)


S. subspinipes dehaani "tigerleg"→S. hainanum 新種


流通名:ハイナンバンデッド、ユンナンバンデッド、コイチョウタイガーレッグ、チャイニーズタイガーレッグ


分布域:中国 海南島、広西、雲南省?、貴州省?


ペットルートでは香港にも分布していると言われているようです。




海南島産普通色。

海南島産赤脚タイプ。

脚の柄が通常色の個体より不明瞭。


海南島産黄脚タイプ(こちらは別種の可能性が高いようです)。

脚の柄が通常色の個体より不明瞭。



S. dawydoffi


S. s. cingulatoidesS. dawydoffi 改名・独立


流通名:ユンナンマホガニー?


分布域:ベトナム、ラオス、タイ、マレーシア、中国?




S. dehaani


S. s. dehaaniS. dehaani  独立

S. arborea S. dehaani


流通名:タイランドチェリーレッド、タイランドフレーム、ラオスジャイアント、マレーシアンチェリーレッド、マレーシアンジュエル?、ローランドジュエル?、メラピジャイアント、ユンナンレッドドラゴン?、ベトナムイエロー、ベトナムオレンジ、ベトナムレッドなど


分布域:タイ、ラオス、カンボジア、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、インドネシア ジャワ島、中国 香港、福建省、雲南省、広西、ベトナム、メキシコ?



タイ産赤脚タイプ。タイランドチェリーレッドと呼ばれる個体群。タイランドチェリーレッドという名前より前に何か使われていた気がしますが忘れました。マレーシアンチェリーレッドに似ているからタイランドチェリーレッドと個人的に呼び始めましたが皆さん現在では同じように呼んでいるようです。僕がパイオニア?なわけないか...


マレーシア産赤脚タイプ。

マレーシアンチェリーレッドと呼ばれるタイプです。かなりド派手なタイプですね。キャメロンハイランドやその周辺の山々に分布しています。高地型と低地型が存在しており、高地型は気温が低い場所にいるせいか高温に弱く飼育がやや難しい傾向にあるようです。高地型の方が色が派手という意見がありますが個人的にはそこまで差はないような感じがします。個体差もありますしね。キャメロンハイランドではかなりの量が乱獲されて個体数が激減しているようです。日本でも昔は高かったですが現在ではかなり安くなってしまっておりますね。いやはや....こんなんでいいのか


S. dehaani? マレーシア産青&赤脚タイプ。

いわゆるマレーシアンジュエルと呼ばれるタイプです。それなりな高地にいます。

ベビーの体色がdehaaniっぽいので個人的にdehaaniだと思っていますが細部までは確認していません。


中国雲南省産。

ユンナンブラックアンドレッドと呼ばれるタイプ。

中国雲南省にはユンナンレッドと呼ばれるタイプもいます。



S. japonica


S. s. japonicaS. japonica  独立

Otostigmus puncticepsS. japonica

Otostigmus politoidesS. japonica 




流通名:アオズムカデ、コイチョウブルー?


分布域:日本、インドネシア スマトラ島、中国 香港、雲南省など南部、韓国?、ラオス?、ベトナム?、カンボジア?

奄美大島産。

かなり青くなることで知られている産地です。


沖縄島産アオズムカデ。沖縄島のアオズもかなり青く、同島に分布するリュウジンオオムカデ(S. alcyona)と混同されることが多々あります。脚の長さが異なりますね。


ムカデはCBの流通が少ないので、当店ではあまり取り扱いませんが、

いずれ国内CBがメインで流通するらいになると良いですね!




以上!







参照文献


Christian Kronmüller. 2012. Review of the subspecies of Scolopendra subspinipes Leach, 1815 with the new description of the South Chinese member of the genus Scolopendra Linnaeus, 1758 named Scolopendra hainanum spec. nov. SPIXIANA. 35-1. 19-27.


Jui-Lung Chao & Hsueh-Wen Chang. 2003. The scolopendromorph centipedes (Chilopoda) of Taiwan. African Invertebrates Vol. 44 (1). Pp. 1-11.


Lewis, J. G. E. 2010. A key and annotated list of the Scolopendra species of the Old World with a reappraisal of Arthrorhabdus (Chilopoda: Scolopendromorpha: Scolopendridae). International Journal of Myriapodology 3 (2010): 83-122.


Schileyko, A. 2001. New data on chilopod centipedes of Vietnam. Pp. 417-445 in: Biological diversity of Vietnam. Data on zoological and botanical studies in Vu Quang National Park (Ha Tinh Province, Vietnam).Fortsetzung von Seite 18. 


Sihe Kang, Yimei Liu, Xiaoxuan Zeng, Haiying Deng, Ying Luo, Keli Chen & Shilin Chen. 2017. Taxonomy and Identifcation of the Genus Scolopendra in China Using Integrated Methods of External Morphology and Molecular Phylogenetics. Scientific Reports Vol. 7, No. 16032 (2017).