マイナーなエキゾチックアニマルを飼育していると、よくアルファベットで書かれた「学名」を目にすると思います。特にタランチュラ等の虫では学名で呼ばれることも多いです。

 当店も、生き物を売る際には必ず学名を添えるように徹底しています。

 ここで学名について少しお話しておこうと思います。「蠍大図鑑」にも記載がありますので興味があればご一読下さい。






     
gen.
     
sp.
     
ssp.
     
spp.
     
cf.
     
aff.
          

学名の必要性

 学名とは簡単に言うと生き物の世界共通の名前です。

 普段私たちは生き物を和名で話すことが多いと思います。例えばイヌ。私たち日本人は「イヌ」と呼びますが英語圏の人々は「dog」などと呼ぶでしょうし、他の言語を話す地域ではまた別の呼称があります。これでは特定の生き物のことをどう伝えれば良いのか悩んでしまいます。そこで世界共通の名前、学名というものが便利というわけです。

 タランチュラについては特徴を表す名前、例えば「ウサンバラオレンジバブーン」といった名前で呼ばれることが多いと思います。これは英名又はコモンネームと呼ばれます。

 しかし、ここで問題が発生します。

 コモンネームは決まったものがあるわけではないということです。ウサンバラオレンジバブーンは他にスターバーストバブーンやオレンジバブーンタランチュラ、オレンジバイティーシングなどと呼ばれています。これら全てがコモンネームとなります。これでは同種かどうかが全く分かりません。そこで共通の、ただ一つ決まっている名前が必要となってくるわけです。


学名の構造

1つ目が属名、2つ目が種小名です。

 例えばデザートヘアリースコーピオンはアツオサソリ属(Hadrurus)に属している、種 arizonensisなのでHadrurus arizonensisとなります。

 アツオサソリ属には他にもブラックバックデザートヘアリースコーピオンなども属していて、その場合Hadrurus spadixとなります。この様に、属が同じな種類は最初の1単語は同じになり、2単語目が異なります。


 動物においては属名の頭文字のみ大文字で表し、その他は全て小文字で表します。そして区別がつくよう、基本的に学名は属名・種小名共に斜体で表します。

また、亜種が存在する場合は種小名の後に亜種名を並べます。種小名と亜種名が同じである、その種を代表する亜種を基亜種(原名亜種)といいます。例えばよく流通しているデザートヘアリースコーピオンはHadrurus arizonensis の基亜種なので正式にはHadrurus arizonensis arizonensis となります。

この種類は他にHadrurus arizonensis austrinus という亜種が存在します。

 但し最近ではクモガタ類等に亜種を設けることに反対する学者さんが多いのでタランチュラやサソリ、ムカデから亜種は消えるかもしれませんね。


 種小名や亜種名の後に記載者名と記載年が書かれることも多いですが当店では普段使用しておりませんので今回は省きます。また、全ての属に存在するわけではありませんが、亜属が存在する場合はそれを括弧書きで表す場合もあります。


学名の読み方

 属名や種小名、亜種名は基本的にラテン語由来で、例えば"arizonensis"とは「アリゾナ(アメリカの地名)の」いった意味があります。読み方は基本的にラテン語読みですが英語読みする人もいます。

 ラテン語読みは、ドイツ語などと同じ様に、原則ローマ字読みすれば大丈夫です。

但しいくつか難しい読み方もあります。例えば "raja"  はラテン語読みだと「ラヤ」で英語読みだと「ラジャ」です。(某タランチュラの種小名です)


 aア、アー
 eエ、エー
 iイ、イー
 oオ、オー
 uウ、ウー
 b, d, f, g, h, k, m, n, p, r, s, t    ローマ字読み
 cカ行
 jヤ行
 qクヮ
 l(ラ行)
 sk(スク)
 vワ行

学名の省略

 必要に応じて属名や種小名(亜種がある場合)を省略することができ、その場合は属名や種小名の頭文字の後にピリオドをつけることで省略が可能です。

 例えばウサンバラオレンジバブーンはP. murinus  、デザートヘアリースコーピオンはH. a. arizonensis と省略が可能です。

 論文など公式文書の場合、省略する際に色々制約がありますがここでは省略します。

 また、属名頭文字が同じ種類のことについて話したい場合、2文字目または3文字目まで書かれることもあります。例えばPoecilotheria regalis と Pterinochilus murinus について話したい場合、P. regalisP. murinus と省略すると同属かのように見えてしまいますので、Po. regalisPt. murinus のように2文字目まで書くことがあります。


略語


gen.

 genus「属」の略で、科名や亜科名までしか決定出来なかった際に使われます。

 種も属も分からない という感じです。



sp.

 species 「種」の略で、種小名が不明もしくは未記載種の場合は"sp."という略語を使って表します。



ssp.

 subspecies「亜種」 が不明の場合は"ssp."が使われます。



spp.

 species plural の略で、 "ssp."と混同されがちな "spp." ですがこれは指定の属の種を複数表す時の略語で、例えばアツオサソリ属の全ての種を表したいときに Hadrurus spp.で表すことが出来ます。



cf.

 confer「比較/参照する」の略で、特定の種に決定出来なかった際に 比較/参照する種を述べます。

 "種小名(近似種)" に似ているが断言できない といったニュアンスです。



aff.

 affinity「近縁の」の略で、特定の種に決定出来なかった際に近縁の種類を述べます。

 cf. と似ていますが、cf. がかなり似ている種類を述べるのに対し、aff.は

 "種小名(近縁種)" に似ているがやや異なる といったニュアンスです。


var.

varietas「変種」の略で、現在動物には使われていません。昔使われていたことがあります。動物に関しては特に知らなくても良いです。

植物では以下も使われます。

f.  = form「品種」

cv. = cultivar 「栽培品種/園芸品種」

hort. (+ex.)= 「庭園の」



n. sp.  / sp. n. / sp. nov.

nova species 「新種」という意味です。

主に新種発表の論文で見かける表記です。

趣味の界隈ではあまり使われていませんがたまに目にします。

n. gen. / gen. n. / gen. nov.

新しい属名の場合、こうなります