今回は時々問題になる「虫の雑種問題」について、
個人的な意見を話していこうと思います。 

あくまで個人的な意見ですので、人それぞれ思うところがあるのは当然です。 


特定個人への批判ではなく、筆者自身が考える理想的な繁殖について述べます。 

主にタランチュラに関して述べますが他の生き物を殖やされる場合も参考にして下さい。 



今回は雑種を作らない為にすべきことについて書きます。

雑種がなぜダメなのかについてはこちら


 タランチュラの繁殖に関して時々
ハイブリットじゃない?」「産地は大丈夫?」などといった会話を目にした方は多いのではないでしょうか。 



 タランチュラ等、虫を飼育しはじめ、
少し経つと繁殖に興味が湧いてくる方は多いと思います。
ほとんどの人が一度は考えると思います。 

その際に、同じ名前のタランチュラをペアで揃え、交接(タランチュラなどのクモガタ類では交尾ではなく交接と呼びます。)させ、殖やす。という単純な行為と考えているとひどく怒られる場合があります。


特に野生採取個体(WC)を使う場合は注意しましょう。 


まず確認して欲しい点は以下の4つです。これはタランチュラに限らずです。 




これから繁殖に使うペアが 

 ・同じ輸入便で来ているかどうか 
 ・同じ学名で来ているかどうか 
(""の中、カラーフォームも含む) 
 ・輸入された際の他の個体と見比べて見た目に差はないか (勿論雌雄差はある) 
 ・交雑が問題となっているグループではないか 




 

まず一つ目。 同じ輸入便で来ているかどうか 

これは野生採取個体(WC)が同じ便で輸入されていれば、
同じ場所で採取された可能性が高く、比較的信用ができるからです。 

繁殖個体 幼体(CB)に関しましても同じ便でかけることが推奨されています。 
これは同じ血統が手に入る確率が高い為です。

もし万が一ハイブリッドが誕生してしまった場合でも、
"この時期に流通した血統は怪しい"と言うことが分かればそれ以上の交雑を防ぐことが容易になります。 

この条件は必須ではないと思いますが頭に入れておいてください。
輸入時期を飼育容器にメモしておきましょう。


つまり、繁殖を視野に入れている場合は同じタイミングで一気に複数匹購入するのが望ましいということです。 

 勿論、CBに関しましては、種類によってはオスが先に成熟して寿命を迎えて死に、繁殖が不可能な場合もあります。 


 

二つ目。 同じ学名で来ているかどうか 

カタカナのコモンネームに関しては一旦無視し、流通時の英字の「学名」について注目してください。

なかなか最初は学名というものの必要性も分からなければ覚えられないといった理由で軽視されがちですがこれはかなり重要です。

学名については後日投稿します。 (当店では全種類学名を明記し販売しております。)

輸入の際には税関に学名を提出しなければならない為、
輸入業者又は輸出業者が個体の学名を決めます。

はっきりと種類が分かっているものもいれば分からない為sp表記(種名が分からない個体に使われる略語)にすることもあります。 

 特にこのsp表記について、spの後にダブルクォーテーションで個体の特徴が書かれます。 

 例: Chilobrachys sp. "electric blue" 

また、産地によってはカラーフォームが存在する場合があります。 

これについても後日投稿しますがRCF、DCFなどというものです。
これも産地情報と同等の価値があります。

これらは定まったものではなく輸入業者又は輸出業者が勝手に決める場合が多いです。

その為、この部分を見れば、だいたいどの業者が入れたのかが分かる場合が多いです。 

ここが同じであれば先程の「同じ便」である確率が高くなります。根本は先程と同じです。
なるべく同じ便でかけたいところです。 

同じ便でなくても輸入業者が一緒であれば同産地で採取されている可能性は高いため、
この部分を見ることは重要になってきます。 


また、コモンネームに産地名が入っていても信用してはいけません。 
起こり得る問題としてまず産地偽装があります。 

有名なもので言えばミントレッグセンチピード(ムカデ)ですね。 
綺麗さ故に最初は海南島でとれるとデタラメを言われ、
日本ではハイナンミントレッグという名で知られていましたが実際は中国本土でとれていたようです。 

また、一か所に集荷される場合もあります。 
エジプトやインドネシア、タンザニアなんかがそうで、周りの国から集められて送られてきます。 インドネシア便だからといってインドネシアで採れた保証はどこにもありません。 
以前、南アフリカから輸入された南アフリカゴールデンスコーピオンなるものが流通していましたがあれはどう見てもイスラエルゴールデン(アフリカ北部分布種)です。これに関しては実際に南アフリカの人も言っていました。 

また、コモンネーム自体も当てになりません。 
イスラエルゴールデンスコーピオンは主にエジプトで採取されているようですし、
ムカデでいえば有名なコイチョウタイガーレッグスコーピオンですが雲南省や海南島で採れた個体が多く流通していました。
ショップは馴染み親しんだコモンネームをつけるところも多いのでコモンネームにあるものが産地という考えは非常に危険です。 


以下はウサンバラオレンジバブーンと呼ばれている種類の各カラーフォームです。

    BCF                               CLASSIC                         DCF Kigoma


三つ目。 輸入された際の他の個体と見比べて見た目に差はないか 

結局同じ便で来ていても当然種類が違うこともあり得ます。 
例えばタイ便で来るタランチュラには、
主にコバルトブルータランチュラとタイランドゼブラレッグタランチュラ、タイランドブラックタランチュラがいます。 
コバルトブルーとタイランドゼブラレッグのオスは見分けが大変つきにくいです。 
その為輸入されてきたオスを見比べる必要があります。
経験があればある程度は判別できるのですがなかなか難しいです。


また、タイランドブラックは様々な種類が含まれます。
同じ便でタイランドブラックという名前で複数タイプ存在していたら怪しんだ方が良いでしょう。 

また、トーゴ便で言いますとトーゴスターバーストバブーンとレッドフェザーレッグバブーン、ヒステロクラテスspトーゴがいます。
トーゴスターバーストとレッドフェザーの野生採取個体の若い個体はかなり似ています。これはたくさん見比べた中で選ばないといけません。 
しかし、これらは実際にかけようとしてもかからない場合も多いです。
採取地が同じであれば生殖隔離によってそもそもかからない場合は多いですからね。

ただ勿論絶対にかからないとは断言しにくいのでしっかり見比べることは大切と言えます。集荷されていただけで厳密には生息環境が地理的に隔離されている可能性もありますので。

また、ヨーロッパなどから輸入される幼体に関してはラベルの貼り間違えなどで別種である可能性もあります。
タランチュラに詳しくないショップなどで見かけます(年に数回程度)。
しっかり検索をかけ調べましょう。 




 



最後に 交雑が問題となっているグループではないか 

交雑が問題になっているグループというものが存在します。 
これらは種同士が地理的に隔離されていることにより種分化され、
人工的にかけようと思えばかかってしまう、といったような感じです。 

また、見た目での判断がしにくいグループがこれにあたります。
以下に具体的に列挙します。勿論これ以外の属でも注意が必要です。 

・ブラキペルマ属       (Brachypelma
・トゥリルトカトル属 (Tliltocatl
・パンフォベテウス属 (Pamphobeteus
・ゼネスティス属       (Xenesthis
・プサルモポエウス属 (Psalmopoeus)
・ヒステロクラテス属 (Hysterocrates
・キロブラキス属       (Chilobrachys
・キリオパゴプス属    (Cyriopagopus
・ポエキロテリア属    (Poecilotheria
・アヴィキュラリア属 (Avicularia)


 

●ブラキペルマ属(Brachypelma)について 

 怪しいのはレッドニー系。
学名で言うとハモリー(B. hamorii)とスミシー(B. smithi)。
アニータ(B. annitha)という種類がいましたが現在はスミシーと同種であるとされています。 
 メキシカンレッドニーやアカプルコレッドニーと呼ばれる種類です。
この辺りは野外交雑もしていると言われ、野生採取個体ですら信憑性がないと言われています。
正直もうどうしようもないところがあると思います。専門家でも間違えます。また後日投稿しますが。 

 他の種類、例えばメキシカンレッドレッグ(B. emilia)(下左)や
メキシカンファイヤーレッグ(B. boehmei)(下右)に関してはそれほど似ている種類はないので余程間違えることは無いと思われます。但し意図的にかけようと思えばかかります。
以前は意図的なハイブリッドが産出され、賛否を産みました。(B. simithi×B. emiliaで「スミリア/スミミリア」) 

           

 ●トゥリルトカトル属(Tliltocatl)について 

 元々ブラキペルマ属でした。
メキシカンレッドランプ(T. vagans)とニューメキシカン(T. kahlenbergi)の交雑が知られています。レッドランプ系が怪しいでしょう。
背甲の色が多少違いますが...両種共にメキシコから輸入され、判別が非常に難しいです。 



●パンフォベテウス属(Pamphobeteus)及びゼネスティス属(Xenesthis)について 

あまり同定がされず、sp表記で流通するものばかりです。
実際に種類が分からないので安易に繁殖させるべきではありません。
同便や""内が同じもの同士しっかりかけるのが良いです。
sp.の使い方やaff. の使い方も注意です。 

P. sp "platyomma"で流通しているものとP. platyommaで流通しているものは若干異なるとも言われています。
Pamphobetrus platyommaVitalius wacketiのシノニム(同種)と考えられているものなのでそもそも現在は存在しない分類なのですが... 

プサルモポエウス属(Psalmopoeus)について 

 似ているものが少ない属ではありますがパナマニアンブロンド(P. pulcher)が交雑して流通しているのではないかという話がありました。
属内でもはっきりしているサンタイガー(P.irminia)などは余程間違いはおこらないと思われますが特徴的でない種類は危険です。 
 
ヒステロクラテス属(Hysterocrates)について 

かなり同定が難しいです。研究者も頭を悩ませているようです。
また、論文自体古いものばかりでシノニムになりそうな種類も多いとか。 

これに関しては主にカメルーンからカメルーンレッドバブーン(H.gigas)表記で来ます。 
その中にはカメルーンブラウンバブーン(H.crassipes)が多く含まれており、本物のgigasは少ない印象です。

以前うちが仕入れたものはやはり輸入時H.gigas表記でした。
そこでトリコに採取地を聞いたところカメルーン ブエア市ということが分かりました。
論文と照らし合わせるとH. crassipesの生息域と重なり、
更に形態的特徴もcrassipesと同じであったのでcrassipesということで販売を致しました。これを本当に殖やしたい場合は詳細な産地情報が必要です。
国名では不十分です。 




 ●キロブラキス属(Chirobrachys)について 

アジアのアースタイガーですが茶色のは危険と考えた方が良いでしょう。 
茶色いキロブラキスはいろいろな場所にいます。
有名なのはチャイニーズファウン(C. guangxiensis)やアジアンファウン(C. huahini)、タニンダーリダークブラウン(C.sp. "Tanintharyi")、アジアンスモーキー(C. dyscolus "black")、ダークアースタイガー(C. sp. "Kaeng Krachan")など。

どれもしっかり日本に入ってきています。また、タイランドブラックという名前でも本属が入ってきているようです。タイブラウンという表記でもいろいろ来ているようです。判別は非常に難しい為産地情報が大事になってきます。 
キリオパゴプス属(Cyriopagopus)について 

 こちらも黒色は危険と考えた方がよさそうです。特にタイランドブラック。 ほとんどがCyriopagopus minax "Big Black"という名前で流通します。最近ではCyriopagopus vonwirthi "Big Black"と変わっています。
この中には本物のminaxがごくまれに含まれますがほとんどが別種と言われています。
専門家でもなかなか判別ができないグループであると言われました。

先述しましたがキロブラキスが含まれる始末にまでなっております。
はっきりとしたロカリティ、そして同便でかけると良いです。 

また、チャイニーズゴールデン(C. schmidti)あたりの茶色っぽいタイプも危険です。特にこの種は分布域が広く、見た目が異なって見えるものも多いです。それゆえに今後種分化がされた際に分かりやすくする為、詳細な産地情報は大事です。 

 派手色のコバルトブルー(C.lividus)でさえもカラーフォームが存在します。

実際ミャンマー産とタイ産では色がやや違うことが多いです。
また、エメラルドグリーンやミッドナイトブルーと呼ばれるタイプも存在し、ミッドナイトブルーは別種かもとの話もあります。
エメラルドグリーンに関しては全ての個体がエメラルドグリーン色になるわけではなく、普通の色の個体も存在します。但しエメラルドグリーンという名前が付いている以上疎かにしてはいけません。 

 ●ポエキロテリア属(Poecilotheria)について 

オーナメンタルタランチュラです。
ど派手なグーティーサファイヤオーナメンタル(P. metallica)は唯一無二ですが残りの白黒連中は同定が難しい種類が多く、ハイブリッドが確認されています。
また、種分化されたりシノニムにされたりを繰り返すアイボリーオーナメンタル ハイランドフォーム(P. subfusca "high land")とローランドフォーム(P. subfusca "low land"= P. bara)に関しても明らかに模様が違うので分けて殖やすべきです。
これらは既に雑種が進んでしまっていますが...

また野生採取個体(WC)が流通しないのでもう... 

以上のように様々な交雑を防ぐ方法があります。 
 雑種を産み出さないためにも、繁殖を考えている方々はかけ合わせる前に 今一度考えなおしてみてください。 
 たまたまペアがそろって殖やしたくなってもそれが雑種になる可能性があるなら止めてください。 
 まずは一度タランチュラの有識者に相談してみるのが一番良いと思います。 
 当店で購入された個体に関しましては出処を把握していますので繁殖をお考えの方はご相談ください。